ご無沙汰しておりました。たちばなです。
ちょっと確認しない間にブログのPVが結構伸びててありがたい限りでございます。
今後も有益な情報を発信できればと思っておりますので、ぜひお付き合いください。
今回の記事は、ぜひこれから私学で働こうという方や、今働いている方に読んで欲しい記事となっております。
私学の採用も山場、という時期です。懇意にさせていただいているエージェントさんもたいそう忙しそうにしていらっしゃいます。
さて、皆様は『常勤講師』という役職をご存知でしょうか。
『専任講師』や『嘱託教諭』『任期制教諭』など表現は学校によっていろいろありますが、ここでは『基本任期が1年で契約満了に伴って、契約更新をするかしないか、または専任教諭への登用になるフルタイムの講師職』というものを『常勤講師』と呼ぶことにします。
その常勤講師ですが、かなり多くの問題があります。何も知らずに勤める前に常勤講師制度の特徴と問題点を押さえておきましょう。
常勤講師制度の雇用側の言い分
常勤講師はフルタイム勤務ですので、担任から校務分掌、部活顧問と、正教諭(専任教諭)と同じ仕事をしていることがほとんどです。
ではなぜ、専任教諭の他に、雇用側が常勤講師制度が必要なのでしょうか。
雇用側の言い分としては『試用期間』ということです。
自校の大切な生徒を扱う教員がどんな人物か、信頼できる人物か、授業力・指導力のある先生なのか、など、判断する期間として常勤講師の制度が必要だ、というものです。
専任教諭は正社員ですから、簡単にはクビにはできません。
「この人はちょっと…」とという人を解雇するためには、有期契約者を『契約満了』として更新しないことが一番すんなりとコトが運びます。
と、いうのが、雇用側の言い分です。
もちろん、それもあるのでしょうが、多くの私学で常態化しているのは
都合の良い人材の使い捨て です。
なぜ人材の使い捨てが起こるのか
前項で『都合の良い人材の使い捨て』と言いましたが、なぜそういうことが起こるのでしょうか。
雇用側をフォローするような言い方をすれば、
将来の生徒数が読めないから、です。
私学は生徒定員があるものの、少子化で生徒は減る未来が見えています。
学校の人気がなくなって、生徒数が減るかもわからない。
逆に、『進学保証』のある地域であれば、一定の点数さえ取れば、受け入れざるをえない、という事情もあり、予想以上に生徒数が増えることもあります。
生徒数が増えれば、嬉しいことですが、クラス数が増え、授業数も増えるわけですから、新しい先生が必要です。
でも、翌年も同じ人数が来るとは限らない。
教員1人雇うのに、年収分のお金だけでなく、福利厚生など、かなり多くのお金がかかります。
維持費のかかる設備を導入するようなものです。
となると、生徒数が増えて、それに伴って教員を正採用すると、将来的に生徒数が減った時に、その教員の維持費が経営に響いてくるわけです。
しかも正採用ですから、簡単にクビにはできない。
となると、生徒数が多い時だけ使うことができて、良いタイミングでおさらばできる常勤講師はとても都合の良い存在、ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。
常勤講師制度の問題点
さて、今まで雇用側を擁護するようなことばかり書いてきましたが、それはそれ。
雇われる側にも言い分がありますし、教育的な意義を考えると悪習と言わざるを得ません。
生徒側の理由と講師側の理由とありますが、結局のところ、教育の質の低下というところにつながります。
ここからは常勤講師制度がいかに悪い制度なのか、述べていきます。
授業の連続性が低い
教員を数年単位で使い回すわけですから、生徒を3年間担当し続けることが難しいです。
3年間契約が続くとしても、所詮数合わせ採用ですので、同じ生徒を担当できるとは限りません。
もちろん、専任教諭であっても、人事の都合で担当できないこともあるかもしれませんが、
校内にいればいつでも前年度の授業について聞くことができます。
学校からすればやめてもらうことを前提とした講師が継続で担当することへの優先順位が下がるのは当然でしょう。
そうすると、引継ぎが必要になるわけですが、学校の都合で辞めざるを得ない人が、懇切丁寧な引き継ぎを作るでしょうか。
専任が引き継ぐならまだマシですが、翌年赴任してくる人がそのあとを引き継ぐ場合には、もう前任者はいませんから、聞くに聞けません。
私も今の職場では、授業も部活も引き継ぎなしで前任者がいないという状況でした。ひでぇ。
結局のところ、前年度どんな授業をしたのか、生徒の学習状況などわからない状態から始まります。
とてもじゃないですが、効率的な授業ができる環境ではありません。
教員の時間的・精神的余裕が減り、授業の質が下がる
前項と被る部分もありますが、授業の連続性だけではありません。
非正規採用の講師を雇うということは、その講師は正採用に向けて試験対策や書類作成をしないといけません。
それが同校の専任登用試験であれ、他校や公立の教員採用試験であれ、正採用であれば、する必要のない手間です。
本業の授業準備の時間が割かれるか、自分の時間を犠牲にするしか無くなります。
それでいいのでしょうか。ただでなくとも多忙な教育業界。
自分の雇用の心配をせずに、教育に専念させて欲しいものです。
将来に責任が持てない
また、自身もいつまでこの学校で働けるかわからない中、二年後、三年後の学力や、受験成果に責任持った指導ができるでしょうか。
責任感あふれた先生もいらっしゃるでしょうし、素晴らしいことだとは思いますが、私はそこに責任を持つべきは管理職や経営陣だと思います。
教員がその学校の将来に責任感を持てるように、雇用に責任を持つべきではないでしょうか。
有期雇用で不要になれば切られるかもしれない教員がその学校の将来に責任を持つ必要はありません。
私も来年や受験の時の話を生徒にしながら(私は来年いるかわからないけどね)と心の中で呟いてます(←卑屈)
雇用上の問題
さて、ここまでは生徒側・学校内での問題でしたが、ここからは労働上の問題です。
無期転換ルール
まず、一番の問題になるのは大抵の学校の雇用条件にある
両者が希望すれば更新あり、ただし、最大3回まで
これの何が問題かというと、契約社員を守る『無期転換ルール』というものがあります。
詳しくはこちらを。有期契約労働者の無期転換サイト(厚生労働省)
どういうものかというと、
無期転換ルールは、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者(契約社員、アルバイトなど)からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。
有期契約労働者の無期転換サイト(厚生労働省)
というものです。これ、なかなか知られていませんが、労働者の権利ですから知っておきましょう。
で、ここでは『契約が5年を超えて』というところがポイントなのです。
先述の雇用契約では『契約は3回まで』でした。
つまり、更新を3回すれば、雇用契約は最大4年。
これは明らかな無期転換ルールを使わせないための雇用契約、雇い止めです。
雇い止めに関しては同サイトに
無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではありません。また、有期契約の満了前に使用者が更新年限や更新回数の上限などを一方的に設けたとしても、雇止めをすることは許されない場合もありますので、慎重な対応が必要です。
有期契約労働者の無期転換サイト(厚生労働省)
とあります。違法とはならないまでも、そういう状況を見越して、厚生労働省が警告を出している方法です。教育現場としてそのような異常な雇用形態を許しても良いものでしょうか。
同一労働同一賃金に違反
こんな問題もあります。2021年の4月から全ての企業で同一労働同一賃金が適用されることになりました。これも罰則こそありませんが、法律です。
ちなみにこの法律は『雇用形態における待遇の差をなくすもの』であって、年功序列を否定するものではありませんのでご注意ください。
これも詳しくはこちらで。
仕事内容が同一であるにも関わらず、常勤講師と専任教諭では給与や福利厚生に差があることが多いです。
これは明確に同一労働同一賃金の制度に反します。
ですので、専任教諭と同じ待遇でないといけません。
私学が常勤講師を多用しようとするのは、専任より安く雇えるため、人件費節約にもなるからです。
しかし、同一労働同一賃金の制度ができたからには、常勤講師と専任教諭の待遇に差をつけてはいけなくなりました。
それがわかっていない・もしくはわかっていながら対応しようとしない経営陣はコンプライアンス的に問題ありです。
もし、ご自身の待遇が専任教諭と異なっていれば、説明を求めるようにしましょう。
事業主は説明要求があった場合、説明義務があります。
非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について事業主に説明を求めることができるようになります。事業主は、非正規雇用労働者から求めがあった場合は、説明をしなければなりません。
同一労働同一賃金 働き方改革特設サイト(厚生労働省)
ちなみに学校法人は一般企業とは異なりますが、文部科学省から、
学校法人および私立学校の教職員については、公務員法制の公立学校と異なり、一般企業の従業員と同様、労働基準法をはじめとした労働関係法令が全面的に適用されます。そのため、各学校法人および私立学校におかれましては、改めて、労働関係法令に基づいた適切な労務管理を行っていただくようお願いします。
学校法人・私立学校の労務管理(文部科学省)
とのお達しがあります。さらに、同ページには
有期雇用労働者と正規雇用労働者の待遇差の内容・理由に関する説明の義務化
学校法人・私立学校の労務管理(文部科学省)
としっかり明記されています。ちなみにこちらで見ると、これは平成31年には施行されているようです。企業よりも前やないかい。
そんな酷い待遇の常勤講師ですが、『専任登用の途あり』という謳い文句に釣られて、もしくは、専任になるためにやむなくしています。
他地域はわかりませんが、こと関西においては、いきなり専任としての採用がある学校はほとんど無いと言っても良いでしょう。
専任化を人質にした卑劣な方法と言わざるをえません。
経営陣の苦しい言い分
先ほど、『試用期間』という言い分を紹介しましたが、あれもかなり苦しいものです。
私立学校は経営があるため、すぐに民間感覚を持ち出しますが、自分たちにとって都合の悪いことには目を逸らします。
どこの企業に3年間も試用期間のある企業があるでしょうか。
私も民間を経験したわけではありませんが、普通、試用期間というのは『正採用が前提』かつ『3ヶ月〜半年程度』ではないでしょうか。
試用期間という言い分が本心であったとしても、1年以内に人物を見抜けないような管理職・理事会は自らを無能であるとアピールしているようなものでしょう。
まとめ
以上、常勤講師制度の問題点をあげました。
常勤講師制度は教員にはもちろん、学生にとっても学校にとっても不都合のある制度であり、得をするのは経営陣だけ、という異常な雇用形態です。
厚生労働省や文部科学省からの指示にも従わず、経営上の利益だけを追求するやり方は、教育の質の低下や教員不足となって、後々自分たちの首を締めることになるでしょう。
一刻も早く教員という資本を大切にする教育現場になっていただきたいと切に願います。
私学の教員をお考えの方は教育専門のエージェントを活用することをお勧めします。
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